私の母の通院終わり、娘とみんぱくに出掛けた。旅行者が一軒家などに宿泊する「民泊」ではなく、大阪にある国立民族学博物館のことである。私自身は小・中・高・大となんやかんやそれぞれの年代で訪れていたが、娘を伴って行くのは初めてかもしれない。

「はじめにどどんとでっかい船がある」「ゲルもある」「広いでー」「おもろいでー」と、研究者泣かせな情報だけ両親から聞かされた娘といざ入館。○十年振りにもかかわらず、全長8mの大きな船・チェチェメニ号が私たちを出迎えてくれた。タッチパネルのクイズ形式でその土地の風習が学べたり、展示品を置くとその解説をしてくれる装置など、手法としては進化しても“体感型”という点では変わっていない。これが、幼かった頃でも今でも楽しく・わかりやすく学べる、みんぱくの魅力だと改めて感じた。解説を読んだり、触れるものは触らせてもらったりする中、肝心の娘は… あまりの広さに、お疲れの様子。博物館内で随所に置かれている椅子に、気付けばちょこんと座っていた。
ところが。そんな彼女の目の色が変わったのが、ほぼ終盤の音楽展示と言語展示。特に言語展示では、絵本「はらぺこあおむし」のさまざまな国の翻訳版や、手話方言を映像と語りで学べたり、点字と墨字で書かれたカードを読み取り機に置くと、その国の言葉で「ありがとう」と喋ってくれる装置もあった。

そしてその隣にあったのが、点字用紙がセットされた点字板。点字は6つの点で構成されていること、読み(凸面)と書き(凹面)は左右対称であるという解説、そして読む時と書く時の例などを見たな、と思ったらもう点筆を握っている。“ぱすっ”という点字を打つ感触。これが大変心地よかった様子。思えば、私がはじめて点字板を手にした時と同じだ。改めて「打ってみるから読んでみて」と言う。打ち終わり、紙を外して裏返すと、書かれていた文字は「あんぱん」。なぜにあんぱんなのかは甚だ疑問だが、私が打つよりも丸くきれいな点字だった。率直に褒めると味を占めたのか、はたまた私への忖度か「点字、おもしろいなぁ」「ライトハウスで打つやつ、余ってへんの」。年末には年賀状で携帯用の点字器を持ち帰るので、その時にでも存分に打ってもらおう。点字板を手にした当初の私のように、広告の裏にでも。

(はなのぼう9月号より)