真夏の昼の夢
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小学5年の夏休み。母と東寺の縁日「弘法さん」に出かけた時のことです。
露店が並ぶ中、人の輪ができています。覗いてみると山伏姿の男が、「ウオー」という気合いで、瓶の中のローソクの炎を消したり、手を触れずに物を移動させたりしながら、この力は修行で身につけたと口上を述べています。見物人たちは何か仕掛けがあると疑い誰も信じていない様子。そして一通り演目が終わるとこの山伏さん、私に向かって、「こっちへ来て、手伝ってほしい」と手招きしてきました。
前に進み出ると、大きな石が置いてあり、新聞紙を細く切って作った帯が2本ゆったり巻いてあります。
「ボク。その紙の帯で石を持ち上げてくれる?」
やってみるまでもなく紙の帯はすぐに切れ、石はびくともしません。
山伏さん、また同じ帯を作り石に巻き付け、私に持たせました。どうやら私に紙の帯で石を持ち上げさせることで、修行で得た力を顕示したいようです。
「今度は、オジサンが“持ち上げて”と声をかけたら上げてくれる?」と真顔で言うと私から離れ、なにやら経文のようなものを唱え始めました。すると目の前がだんだんと暗くなり、帯を持つ手先だけしか見えなくなった途端“上げて”の声が鋭く耳に入ってきました。
「上がった!」というどよめき。ひときわ大きな母の歓声。衆人環視の中、持ち上がるはずのないものを上げているのは自分自身。これはマジックなのかそれともここにいる全員が夢を見ているのか。
これがこのとき体験したすべてです。
この世の出来事は自然の法則で捉えるべきとされ、いわゆる超能力の話には先ず疑いや嘲りの目が向けられます。とはいえ情報ステーションではこうした話の図書に根強い人気があり、やはり人間の精神力にはただならぬものがあると期待する向きが多いからでしょう。
情報提供という多様な感性に応える業務には、一度ぐらい不思議な体験をしておくのもいいかも知れません。
(五十嵐 幸夫)