「かたつもり」第六話「いつも疑問に思ってること、聞いちゃいます」
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ライトハウスの晴眼職員が、同僚の視覚障害職員に質問するコーナーです。「見えない・見えにくい人たちって、こんな時どうしてるんだろう?」 そんな素朴な質問を通して、「知ってるつもり」から、視覚障害をもった方々への理解につながれば何よりです。今回は、今年からホームページ委員になった盲人養護老人ホーム 船岡寮の稲田が、同じホームページ委員の久保さんに質問してみました。
稲田 いつも疑問に思ってるんですが、買い物なんてどうしてるんですか?
久保 この質問はよく尋ねられること多いんだけど、食材を買いにいくのか、洋服を買いにいくのかなど、買うものによっても違ってきますね。ちょっとした買い物、パンや飲み物、私の場合はタバコなんかもそうだけど、結構コンビニを使うこと多いですよ。コンビニって、大抵入口の近くにレジカウンターがあって、そこで店員さんにほしいものを取ってきてもらったりすることもできるから便利なんです。それに比べて、スーパーマーケットみたいに、少し広いお店だと、お店に入ってまず店員さんがいるレジカウンターがどこにあるか探すのに苦労することもあるんです。行き慣れているスーパーならともかく、初めていくようなスーパーだと、まずレジがどこにあるか、誰かに尋ねなければならないんです。で、なんとかレジカウンターにたどり着いたとしても、店員さんが忙しくしていそうだったりすると、なんか頼みにくいなーという感じになったりもします。
稲田 そうなんですか。じゃー、百貨店やデパートなんかも使いにくいんですか?
久保 百貨店やデパートなんかだと、入口近くにサービスカウンターがあることが多いですよね。そこには常駐の店員さんがいるので、そこまで何とかたどり着いて、要件を伝えれば、大抵は何とかなります。「○○がほしいんですが…」と伝えれば、館内の専門店まで手引き(視覚障害者を安全に誘導すること)してくれたり、時には一緒に買い物に付き合ってくれたりもします。数年前、婚約指輪を一人で買いにいった時も、百貨店を利用しました。サービスカウンターで要件を伝えると、店員さんが館内にあるいくつかの装飾品店の中から、こちらの条件に合いそうなお店を一つ選んでくれ、そのお店まで手引きしてくれました。無事買い物を済ませると、またその店員さんが百貨店の出口まで手引きしてくれました。ほんと、安心して大きな買い物ができましたよ。
稲田 久保さんは全盲ですよねー。最終的に「この指輪を買おう!」と思った決め手は何だったんですか?
久保 うーん。触った瞬間のひらめきでしかないかなー。店員さんも非常に勧めてくれたこともありましたからね。
稲田 少しひねくれた考えかもしれませんが、店員さんも商売だから、少し高めの指輪を勧めたかもしれないと思いませんでしたか?
久保 稲田さんのいうようなことを全く思わなかったといえば嘘になるけど、事前にネットでだいたいの相場を調べておいたんです。勧めてくれた指輪も、その範囲内だったんで、あとはその店員さんを信じるだけですよね。
稲田 では、買い物に行くのに、公共の交通機関を使うことも多いとは思いますが、電車の切符などはどうやって買っているんですか?
久保 事前にネット等で運賃を調べておいて、券売機で買いますよ。ただ最近はタッチパネル式の券売機が多くなってきていて、少し不便になってきました。私は全盲ですので、パネルのどこがボタンで、どこを触ればいいのかわかりません。昔ながらの触ってわかるようなボタン式の券売機もありますが、今は減ってきていますね。だから周囲の人に「○○までの切符を買ってほしいんですが…」とお願いすることもありますよ。
稲田 そもそもどこに券売機があるか、すぐにわかりますか?
久保 駅校内に入れば、何とかわかるもんですよ。券売機のところまで点字ブロックが引いてある場合もありますし、誰かが切符を買っているなら、おつりが出た時の「ジャラジャラ」という小銭の音もヒントになります。視覚障害の人の中には、普段利用する鉄道のプリペイドカードを事前に購入しておいて、毎回切符を買う手間をうまく省いている人もいますね。
稲田 では、タクシーなんかも使いますか?
久保 そうですね、急いでいる時や、一杯ひっかけて、最終バスに乗り遅れたという時なんかに、時々使いますよ。慣れた場所へタクシーで行く時は、なるべく具体的に道順を伝えるようにしています。「○○通りを西へ、○○通りを右に曲がって、二筋目の通りを過ぎたところで止めてください。」というようにね。タクシーが右へ、左へと曲がった感覚は、見えなくてもわかりますので、今自分がどのあたりを走っているのかつかみやすくなります。
稲田 なるほど。そうすれば、わざと遠回りされるというようなことも防げますよね。
久保 そうですね。運転手さんが、気を利かせて近道を走ってくれることもありますが、私なんかは、どこを走っているのかわからず、少し不安になることもありますよ。
稲田 私は盲人養護老人ホーム船岡寮で支援員として働いているので、普段視覚障害をもったご高齢の方と接しているわけですが、実際に視覚障害をもった方々の生活について、まだまだ知らないことがたくさんあるんです。どのように声かけして、どのように支援していけばいいか、迷うこともまだまだありますよ。
久保 そうですね。視覚障害といっても、その方の見え方、年齢、いつごろから見えなく・見えにくくなってきたかなどによって、生活のスタイルは違ってきます。ただ、「こんな風にやっている」、「こんな工夫をして乗り越えている」など、いろいろな人からの話を聴いて知っていることは、今後の稲田さんのお仕事に役に立っていくことでしょう。まずは「知る」ということが大切なんでしょうね。
稲田 ありがとうございます。私も支援していく側の者として、見えないからできないではなくて、こう工夫すればできることも増えるかも…、という視点で利用者さんと接していければと思います。まだお聞きしたいことがあるので、次回もどうぞよろしくお願いいたします。
熱~く語り合う。久保さんと稲田二人のツーショット。