「かたつもり」第二話「本は読みますか?」
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新人職員齋藤が、視覚障害をもつ先輩職員久保さんに質問するコーナーです。「見えない・見えにくい人たちって、こんな時どうしてるんだろう?」そんな素朴な質問を通して、「知ってるつもり」から、視覚障害をもった方々への理解につながれば何よりです。さて、第2回目のテーマは?
第二話「本は読みますか?」
齋藤:「久保さん、本はどんなふうに読みますか?視覚障害の方は、点字で読むというスタイルが一般的なのかと思ってるんですが・・・・?」
久保:「点字でも本を読むけど、最近は、デイジーを利用する人が多いよ。※デイジー(DAISY)というのは、視覚障害者や普通の印刷物を読むことが困難な人々のためにカセットに代わるデジタル録音図書の国際標準規格として開発されたシステムで、日本ではCDに収録されていることが多く、京都ライトハウス情報ステーションでも借りることができるんだ。」
齋藤:「点字じゃないと嫌だっていう『点字派』の方もおられますが、『デイジー派』の久保さんにとって、そのメリットとはどんなところですか?」
久保:「なんといっても、気軽さがいいよね。デイジーなら大抵の本がCD1枚に納まってる。点字と違って、寝転がって読めるし。それに最近は新刊のデイジー化が早くなったんだよ。本屋で平積みになってる本なんかだと、1,2ケ月ぐらいあれば利用できる。デイジーを再生する機器も少しずつ増えてきてて、家では弁当箱ぐらいの大きさの機器を使うし、外出先では携帯電話ぐらいの大きさの機器を使うことが多いかな」
齋藤:「なるほど。場面によって、媒体を使い分けているってことですか」
久保:「場面だけじゃなくてね、目的・用途によっても使い分けをしているんだ。わりと軽く読めるもの、たとえば小説とかは、デイジー(録音図書)を使って聞くことが多いけれど、専門書とかになると点字図書を使うよ。難しい専門用語なんかは点字を使って何度も繰り返して読んだりしてる」
齋藤:「視覚障害者の読書=点字ではなくって、音声でも読めるし、さらに一人の人がいろんな使い分けをしながら、それぞれのスタイルで読書をしてるってことですね」
久保:「デイジーがまだ登場していない頃は、点字かカセットテープを利用して本を読んでいたんだ。点訳するとたった1冊の本が何冊にも増えるし、カセットテープも何巻にもなる。どちらとも、郵送してもらっても郵便ポストに入らないし、借りて持ち帰ろうと思っても、すごい荷物の量になる。よっぽど読む気がないと、借りられなかった。それがデイジーだったら、たったCD一枚だらかね。この差は大きいよ」
齋藤:「そうだたんですね。『読む』という行為にたどり着く過程自体が、大変だったんですね」
久保:「さらに、今は視覚障害者総合情報ネットワーク※『サピエ』というホームページを利用すれば、家に居ながらにして、全国の点字図書館等が所蔵しているデイジー図書の中から、読みたい本を検索して借りることができる。つまりオンラインリクエストができるんだ。また、サピエから自分のパソコンに、読みたい本をダウンロードして読むことができるようになった」
齋藤:「『サピエ』ってすごい!」
久保:「感動だよ。読みたいものがすぐ読めるんだからさ。デイジーやサピエを利用するようになってからは、乱読するってことができるようになった」
齋藤:「おお〜。乱読する自由の獲得ですね。久保さんは一日に、どれくらいの量読まれるんですか?」
久保:「寝る前の30分〜1時間は読書の時間にしてるよ。月に2・3冊は読むね。」
齋藤:「どんなジャンルの本を読みますか?」
久保:「小説が多いかな。最近の新刊とかを知っていると、利用者さんたちに薦めやすい。話題になっていて、読んでみたい本があると、デイジー使ってみようかって気になるでしょ」
齋藤:「さすが、久保さん。仕事熱心ですね。ところで、最近の新刊って、どうやって情報収集していますか?」
久保:「それこそ、『サピエ』の人気ランキングとか、ネット購入ができるホームページの本屋ランキングを参考にしてるよ。それに、本屋さんにも行く。友達と一緒に行って、平積みの本の帯なんかを読んでもらうんだ。面白そうなのは、その場で買って帰ることもあるよ」
齋藤:「え!本も買うんですか?」
久保:「買うよ〜。視覚障害者は本屋に行かないと思ってる人がいるけど、それは違うよ。買った本は※プライベート音訳でデイジー化して読むんだ。もちろん、先に『サピエ』で検索しても見つからない場合にね」
齋藤:「なるほど、『読む』ための方法って、多岐に渡るんですね。そして、いろんな道具やシステムが生まれて豊かになっているんですね」
久保:「そうだね。確かに豊かになったと言えるけど、その反面、視覚障害者の間でも『情報格差』が拡大しているようにも思う。この格差をどうやって埋めていくのかということが、課題になってるんだよ。デイジー化やサピエの普及が広がるなかで、一定カセットテープを残していくことも大切だし、視覚障害の仲間が気軽にデイジーを利用できるような機器の開発や、操作をするための練習の場をつくっていくことも大切だと思う。」
齋藤:「選択肢はたくさんあって、選べるってことが大切ですもんね。カセットテープならではの利用しやすさがあるでしょうし」
久保:「最後にこぼれ話だけど、僕に限ってなのかもしれないけれど、デイジーを聞いてると『好きな音訳者』って出てくるんだよ。聴きやすさだけではなくて、話に引き込むことのできる音訳者がいたりする。声の質と、ストーリーとの相性なんかも関係するのかな」
齋藤:「音訳って奥深い仕事なんですね・・・・」
※DAISY(デイジー)とは?
Digital Accessible Information Systemの略称であるDAISY(デイジー)は視覚障害者及び視覚による表現の認識に障害のある人のためのデジタル録音図書の国際標準規格です。これまでのテープ図書とは違い、専用の再生機を使うことによって聞きたい章や節、ページに移動できます。また、MP3などの圧縮方法で一枚のCDには50時間以上も収録が可能です。なお、このデイジー図書には音声のみの音声デイジー以外にもテキストと音声の入ったテキストデイジー、音声・テキストに加え、画像も入ったマルチメディアデイジーがある。
※「サピエ」とは?
視覚障害者及び視覚による表現の認識に障害のある人に対して点字・デイジーデータをはじめ、暮らしに密着した地域・生活情報などさまざまな情報を提供するネットワークのことです。その中の「サピエ図書館」では、点字・デイジーデータなどをパソコンや携帯電話を使ってダウンロードできます。しかも、各館が所蔵する資料をオンラインでリクエストできます。また、「地域・生活情報」の利用や「お役立ちリンク集」などによって、さまざまな情報が得られるほか、図書の製作に関する支援も行われています。この「サピエ」とはラテン語のSapientia サピエンティア (知識)から名付けられています。
※プライベート音訳(点訳)とは?
読みたい本がどこの点字図書館等にない時、元の本を持参すれば、音訳・点訳してもらえる個人依頼形サービスです。京都ライトハウス情報ステーションでサービス提供しています。