はなのぼう 2009年06月20日号
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 辻井伸行さんは、6月8日のバン・クライバーン国際コンクールで優勝し絶賛されて以降、世界的なピアニストとして活躍の場が大きく拡がり、すばらしい演奏に、今後への期待がいっそう大きくふくらんでいます。

 その中で、世界的には一般の音楽家としての冷静な評価なのに対し、日本では特に「全盲の辻井さん・・・」が強調されているきらいがあります。でも、視覚障害者に最も向いていると言われる音楽の世界では、平等にきちんと評価してほしい、という批判が多くの方々から出されています。また、辻井さんが「聞いて覚えた」ということも強調されています。辻井さんの「聴覚」はすばらしく、小さいときから、聞いて覚えて自分の音楽に取り入れていく抜群の感覚と能力が、今の辻井さんの音楽を作り上げてこられてきたことは間違いありません。

 ただ、そのことが「点字楽譜はあまり役に立たないんだ」という、ちょっと困った現象をもたらしています。辻井さんの場合は、小さい時に、彼の聞いて再現する能力の高さに気付かれたご両親が指導体制を整えてこられ、6歳のときから指導に当たってこられた先生方も、右手のみ、左手のみと分けて録音したり、さまざまな留意点などを細かく伝えてこられました。それが彼のずば抜けた聴覚の良さを生かしたよい方法なのでした。

 でも、だからといって、「点字楽譜は役に立たない、点字楽譜がなくても音楽ができる」は早計過ぎます。多くの方々は、彼のような環境にはなく、視覚障害者が音楽を覚えるためには、点字楽譜がぜひ必要であるというのは、関係者の一致した見解です。CDやインターネットの発達した今日でも、点字楽譜で覚えては演奏し、それを積み重ねて自分の音楽を作り上げていくことが、非常に重要なのです。世界の点字の発明者であり優秀なオルガニストでもあったルイ・ブライユは、まず点字楽譜の組み立てから点字を考案していました。生誕200年を迎えた今年、点字楽譜の必要性を再確認し、視覚障害への正しい理解に結びつけていくことの重要性を再認識した、辻井伸行さんのすばらしい快挙でした。(加藤俊和)